Hirofumi Yoshida - 吉田裕史

吉田裕史:指揮者
東京音楽大学指揮科及び同研究科修了。ドイツ・イタリアで研鑽を積み、2007年ローマ歌劇場カラカラ浴場野外公演を指揮、2010年1月よりマントヴァ歌劇場音楽監督に就任。
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2009年2月28日 00:56
とっても "カンタービレ" なイタリアのオーケストラ
さすがは "歌の国" イタリア、この国のオーケストラは本当にカンタービレ(歌うように、、いや、歌いまくる、の方が近いかも。)です。
トリエステのオケもローマのオケも、本当に歌いまくっていてましたが、今回のキエーティのオーケストラも molto cantabile でした。
例えば第1幕が始まってすぐ、スコアの練習番号4番で、オペラが始まって初めての "王子の勇気と挑戦のテーマ" (私が勝手に名付けました(笑))が流れますが、この時のオーケストラのメンバー全員の嬉しそうなこと&気合いの入ることといったらありません。 このメロディー "Do-Si-La-SolFaSolLaSi--Mi----" (ド‐シ‐ラ‐ソファソラシ‐‐‐ミ‐‐‐‐‐‐‐) を演奏する時の彼らの何が凄いって、情熱的だとか、音が美しいとか、ヴィヴラートの振幅がまさにメロディーにマッチしているとか、そんな(彼らにとって)当たり前のことではなくて、この最後の長いMiの音の歌い方なのです!
普通、長い音というのは、最初(音の出だし)に一番気をつけて、音を出したら後は音の長さ(何拍あるか)を数えながら音を伸ばし、さらにできるだけテンションをキープしようとします。
ところが、彼らは:
① まず、音が長ければ長いほど、その最後の瞬間まで歌いまくろうと思って、まだその音を出す前からワクワク(ニヤニヤ)している。
② いざ音を出す瞬間になると、"皆で揃えて音を出そう" などということは微塵にも考えず、一人一人がただひたすら "いかに美しい音を出すか" ということに命を懸ける。 だから、厳密に言うと完全に揃って始まっているわけではないのに、音を出す前の呼吸はぴったり合っているので、(音楽の流れとしては)全く "ずれて" 聞こえない。 摩訶不思議。 むしろ、みんなのこの0.001秒ずつのズレが、美しく、柔らかく、エレガントなアタック(音の出だし)を生み出しているような気が。。。
③ こうして音が出る前の時間をたっぷり楽しんだ後(笑)、音が長ければ長いほど、彼らにとって"お楽しみの至福の瞬間" (音楽家をやっていてよかった!と。)となる。 例えば前述のメロディーの最後の音 "Mi"。
普通は、この "ド‐シ‐ラ‐ソファソラシ‐‐‐ミ‐‐‐‐‐‐‐" の最後のMiを、数(拍数)を数えながら伸ばす。つまりMiを出してから、8ビートで( ♪ を単位として)2-3-4 (音を出した瞬間が1なので、数えるのは2から)と数えることになる。 または、4分音符2つ分を数える。
(注:音楽家は、今演奏している音楽に内在するテンポ感によって、最も相応しい単位でビートを感じる訓練がなされているので、音符は2分音符で書かれていても、4分音符二つで感じたり、8分音符四つで感じたり、時には16分音符八つ分で感じる習性があります。)
だから、"ド‐シ‐ラ‐ソファソラシ‐‐‐ミ‐‐‐‐‐‐‐‐" は、"ド‐シ‐ラ‐ソファソラシ‐2‐ミ‐2‐3‐4‐" となりがちなのですが、なんと彼らは拍を数えずに、とにかできるだけ魅力的に歌おうとします。音が長ければ長くなるほど、その長さ分だけたっぷりと、音の後(うしろ)へ行けば行くほどよりカンタービレに歌おうと します。 そこで、どんなふうに聞こえる(演奏しているか)かというと、彼らの心の中では:
"ドォシィラァソファソラシィィイミィィィイイイイ"
と、歌っているわけです。
さらには、最後の2分音符のMiの音をあまりにも気持ち良く(のりまくって)歌いすぎてしまって、(メトロノーム的には)長すぎてしまい、"おいおい、それはあまりにも歌いすぎなんじゃないの? 小節線をはみ出してないかい(笑)?" と言いたくなるほどのカンタービレで:
"ドォシィラァソファソラシィィイミィィィイイイイィ"
なんて楽しそうに、とてもうれしそうに演奏しているわけです。
そこで、オーケストラとの初めてのリハーサルで何が起こったかというと、推進力あるテンポ感で、情熱的にぐいぐいドライブしていきたい指揮者(私)と、できるだけたっぷり、それも長い音になればなるほど最後の瞬間まで歌い切りたいオーケストラの間でささやかな、、いや、かなりの葛藤が生まれました。 オケのメンバーみんなの顔に書いてありましたから。 "もう少したっぷり歌わせてくれないかなぁ。。" って。
では、最終的に、どんな演奏なったかというと・・・ 7日間にもわたるリハーサルの結果、お互いがよく理解し合うようになり(笑)、推進力溢れる情熱的でカンタービレな演奏となりました。
次回、共演するオーケストラはどんな個性を持っているのでしょうか。。
Hirofumi Yoshida

